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Askar 80PHQ製品レビュー

今回の製品レビューは 「Askar 80PHQ」です。



                                                                  レビュー:吉田隆行

Askar 80PHQのインプレッション





Askar 80PHQ(以下「80PHQ」)は、Askar社が製造する天体望遠鏡で、2022年夏に発売が開始されました。3枚玉の対物レンズにフラットナーレンズを追加した、口径8センチと小型ながら高性能な望遠鏡です。

今回は、80PHQをフィールドに持ち出し、使い勝手や眼視性能、天体写真の結像性能を調べてみました。





80PHQの光学系について



80PHQは、口径80mm、焦点距離600mmのEDアポクロマート屈折望遠鏡です。2枚のEDレンズを含む3枚玉の対物レンズと、1枚のフラットナーレンズで構成されています。

下図は、メーカーが公表している構成図です。3枚玉の対物レンズの後ろに大口径のフラットナーレンズが配置されているのがわかります。



80PHQの口径比はF7.5と、同社の天体撮影用のFRAシリーズ(F5.6)と比べると、約1段暗くなっています。PHQシリーズは、写真性能だけではなく、眼視性能にも拘った望遠鏡ということでしょう。なお、80PHQには、口径比をF5.7まで明るくするレデューサーレンズがオプションで用意されています。





天体望遠鏡の外観



80PHQには、白をベースとした鏡筒に、PHQシリーズを表すグリーン色のストライプやパーツが取り付けられており、全体として洗練されたデザインを感じさせます。



鏡筒の質感も良好で、チープな印象は全くありません。また、口径8センチの屈折望遠鏡のため大きくはありませんが、4枚玉を採用していることもあって、手に取るとしっかりと重量感が感じられます。

ファインダーは付属していませんが、鏡筒バンドやアリガタ型金具は付属しています。鏡筒バンドにはキャリーハンドルが装備されており、片手で安全に持ち運ぶことができるのは便利ですね。





80PHQの各部分



80PHQには、伸縮式のフードが採用されています。フードのスライド長は約9cmで、鏡筒全長が540mmから収納時は450mmとコンパクトになります。



対物レンズのセルには、光軸調整用のネジは装備されていません。最近の口径10センチ以下の天体望遠鏡では光軸調整装置は省かれることが多く、特に問題はないでしょう。有効径内に錫箔のような遮蔽物の飛び出しもなく、すっきりした星像を楽しむことができます。

鏡筒の後端には、回転装置が標準装備されています。回転装置の動きは滑らかで、ストッパーの固定力も強力でした。ドロチューブに回転角度を示す目盛りが刻まれているので、カメラの回転角度がわかりやすく、構図合わせの際に重宝するでしょう。



フォーカサーは、ラックアンドピニオン式です。ドロチューブの最大繰り出し長は、約100mmです。ドロチューブには、繰り出し長を示す目盛があり、ピント位置の管理に便利だと感じました。ピントノブには減速装置が取り付けられており、微妙なピント合わせも快適に行うことができます。

ピントノブを回した時のドロチューブの動きは、少しゴリゴリした感触があります。高倍率で星を観測している時、ピントノブを動かすと、視野内の星がカクッと揺れることがありました。減速装置を使用すると揺れは感じられませんが、この点は気になります。



接眼部は、2インチサイズと31.7mm径のアメリカンサイズのアクセサリー群に対応しています。天体写真の撮影用に、4ピースからなるカメラアダプターが付属しており、M48径のカメラマウントをねじ込むことができます。





眼視での印象



よく晴れた夜、80PHQを使って恒星像を確認しました。なお、テスト前には、望遠鏡を外気に触れさせて、レンズを外気温に順応させています。

まず、200倍前後の倍率でいくつかの恒星像を確認しました。光軸はよく合っており、焦点像は大変シャープで、色収差も感じられません。ディフラクションリングも綺麗に見えました。焦点内外像の対称性も良好で、綺麗な同心円が見えます。



フラットナーレンズが搭載されているため、中心像だけでなく、視野隅の星も丸く均質です。視野の中で星を動かして確かめてみましたが、どの位置でも星像の大きな崩れは感じられませんでした。

次に、月面を観望してみましたが、月のリム部分に色づきは感じられません。コントラストも良好で、欠け際のクレーターもよく見えました。



さらに春の系外銀河を観望したところ、やはり口径8センチでは口径不足に感じました。一方、散開星団を視野に入れると、視野隅まで丸い星が気持ちよく、像のコントラストの高さもあって美しく感じます。

なお、鏡筒の31.7アダプターに直接アイピースを差し込んだところ、ドロチューブを最大まで伸ばしても光路長が足らず、ピントが合いませんでした。観望時は、天頂ミラーや天頂プリズムを用意するとよいでしょう。





直焦点での結像性能



80PHQに35ミリフルサイズのデジタル一眼レフカメラEOS6D(フィルター換装・冷却改造)を取り付け、天体撮影を行いました。

下は、直焦点で撮影した、ばら星雲の写真です。ダーク・フラット補正を行った6枚の画像を重ね合わせ、星雲が見やすいようにコントラストを調整した画像です。画像各部(中心と四隅)のピクセル等倍画像を全体画像の下に掲載しています。






星像は、35ミリフルサイズ全面に渡ってシャープで、星像も真円です。ピクセル等倍画像を見ても、写野中心はもちろん、写野隅でも星像は丸く、色収差も感じられません。




直焦点時の周辺減光



80PHQの周辺減光についても調べてみました。下の画像は、フラット補正(周辺減光補正)を施す前の1枚画像です。減光の様子がわかりやすいようにコントラストを強調しています。



光量は全体的に均質でフラットですが、最四隅が暗く落ち込んでいることがわかります。使用したM48径のカメラマウントの内径が狭いため、望遠鏡からの光がケラれてしまうのでしょう。



光学系の周辺減光を示すフラットフレーム(上画像)を見ると、四隅のケラレがよくわかります。ただ最四隅を除けば、画像全体としては明るさの勾配も少なく光量はフラットで、APS-Cサイズのセンサーなら、フラット補正も不要なくらいです。





専用レデューサー



PHQシリーズには、口径比を明るくする補正レンズ(レデューサー)がオプションで用意されおり、80PHQには、専用に設計された0.76倍レデューサーがあります。

80PHQにレデューサーを使用すると、焦点距離が456mm、口径比がF5.7となり、約1絞り明るい光学系になります。イメージサークルは、直焦点時と同じ35ミリフルサイズをカバーする44mmを確保し、光軸上の最小スポット径は約1.6μmと高性能なレデューサーです。



レデューサーは3枚のレンズで構成されており、レンズ径も大きく、手に持つとずっしりと重さを感じました。

鏡筒本体への取り付けは、カメラアダプターの内側にねじ込んだ後、ドロチューブ内に挿入する形になります。そのため、外観からは、レデューサーが取り付けられているかどうかは見分けがつきません。





レデューサーを使った天体撮影



80PHQ専用の3枚玉の0.76倍レデューサーを取り付け、直焦点と同じカメラ(EOS6D)を使用して天体撮影を行いました。

下は、レデューサー焦点で撮影した、オリオン大星雲の写真です。ばら星雲と同じく、ダーク・フラット補正を行った6枚の画像を重ね合わせ、コントラストを調整した画像です。全体画像の下に画像各部のピクセル等倍画像を載せました。






直焦点の時と同様、写野中心はもちろん、写野隅でも星像は丸く写っており、全体にわたって星像はシャープです。

星像をよく見ると、写野隅で色ずれが僅かに感じられますが、ほとんど気にならないレベルです。それよりも、直焦点よりレデューサーを使った方が、全体的に星像が若干小さくなり、シャープ感が増したように感じました。





レデューサー使用時の周辺減光について



フラット補正適用前の画像のコントラストを上げると、写野隅に近づくにつれ、減光していることがわかります。最四隅がさらに一段暗くなっているのは、カメラマウントによるケラレでしょう。



フラットフレーム(下画像)を確認すると、直焦点に比べて、周辺部の光の落ち込みの範囲が広いことがわかります。



ただ減光の度合いはそれほど急ではなく、フラット補正をすれば35ミリフルサイズカメラでも十分使用できる光量を有しています。APS-Cの範囲内なら、フラット補正が不要なほどです。





80PHQの印象



今回、Askar 80PHQを実際に天体観望や撮影に使用した印象や、上記に書ききれなかった印象を以下に箇条書きでまとめました。

・色収差が少なく、星像も非常にシャープ。フラットナーレンズの効果によりアイピースの視野隅でも星が丸いのが気持ちよい。

・鏡筒の造りはしっかりしており、グリーン基調のデザインが目新しさを感じさせてくれる。丈夫な持ち手が装備されているので、安心して赤道儀に搭載することができる。

・この個体特有の事象かもしれないが、ドロチューブの動きがゴリゴリしている点が気になった。ただ減速装置の動きは滑らかで、電動フォーカサーのEAF取り付けに対応している点は天体写真ファンにとってありがたい。

・天体撮影における結像性能は非常に良く、35ミリフルサイズ隅まで真円を保っていた。光量も豊富で、画像処理もしやすく感じた。APS-Cサイズのセンサーならフラット補正も不要だろう。

・レデューサーレンズは80PHQ専用設計だけあって、星像は一段と引き締まり、光学性能の高さを感じた。2通りの焦点距離で天体撮影を楽しめるので、是非用意したいオプションパーツだ。

・35ミリフルサイズを十分カバーするイメージサークルを有しているだけに、内径が小さなカメラマウントしか使用できない点は残念だ。是非、大きなカメラマウントを使えるアダプターを用意してほしい。





まとめ



これまでAskar社の望遠鏡を使用する機会はありませんでしたが、今回、80PHQを実際に使ってみて、Askarの望遠鏡が天文ファンから高評価を得ている理由がよくわかりました。

まず、鏡筒の造りの良さを感じます。従来の白一色の天体望遠鏡と異なり、グリーンをポイントにした鏡筒はデザイン性も感じられ、所有する喜びも感じる機材だと思います。

次に、結像性能の良さに感心しました。80PHQは、EDレンズ2枚を使用した3枚玉対物レンズで色収差が良好に補正されているので、星像は非常にシャープで、色収差もほとんど感じられません。国産の高級アポクロマート望遠鏡と比べても遜色のない性能だと感じました。

今回、80PHQを使用してみて、Askar製の他の望遠鏡にも興味が湧いてきました。是非、皆様もマルチな性能を持つ80PHQで、天体観望や撮影を楽しんでみてはいかがでしょうか。



今回レビューをしていただいた吉田隆行様のサイトはこちら。


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